21世紀はマルチリンガルが当たり前になってほしい

ゆうこさん(オタワ)

私はカナダ出身ですが、母は日本から父はセルビアから移民してきました。両親はそれぞれ日本語とフランス語を教えてくれました。10歳まではフランス語が公用語のケベック州にいて、それから英語とフランス語が公用語の首都オタワに来ました。今はオタワの議会で英仏同時通訳者として働きつつ、1歳と4歳の子供の子育てをしています。

オタワではWhat’s your mother tongue?って聞かれるときは大抵、英語とフランス語どちらが上手か聞いていると思うんですが、うちはそれとは違うので答えに困ります。母語という言葉は「母」が入っているし、家の言葉は日本語とフランス語だけど、メインは英語ですって答えます。同時通訳の仕事は英語からでもフランス語からでもトレーニングを受けている仕事で、同僚の中にはスペイン語やドイツ語また他の言語も話せる人もいます。私は言葉に囲まれて育ったし、言葉に囲まれて仕事をするのは居心地良いかんじがしています。

当たり前に話していた日本語

 子守歌とか子供のころの絵本とかは大抵日本語でした。なので今も自分の子供を相手にしていると「おいで」とか自然に出てくる。怒ったら英語ですけど(笑)。小学生のころから土曜日は補習校と決まっていて、中学3年生まで勉強しました。

 子供のころ日本語は当たり前に話してましたね。どうして日本語習わなきゃいけないのって聞いたことがあるらしくて。母の答えが「あなたは半分日本人だから、話せて当たり前でしょ」って。母も通訳者で翻訳者なので、言葉は習いなさいというかんじでした。

 大人になった今でも当たり前ですね。小さいころから話しているから。自分の日本語のレベルはこれまで上がったり下がったりしていて、日本に住んだり、子育てを始めると自分もちょっとがんばらなきゃとなって。自分としては日本語を普通の日本人のように話せなきゃいけないと思い込んじゃってて、すごいコンプレックスになっている感じですね。なぜだか!「日本人のように」っていうのは日本で生まれ育って、漢字も書けて、仕事も日本語でできる人みたいなこと。たぶんそれは自分が通訳者として言葉のプロとして働いているからというのも少しはあるかもしれないですけれど、すごく中途半端なかんじだなと自分で思いながら、でもそこまで日本語勉強する気も自分にないかな~と思ったりします。コンプレックスと「まぁいいや」の二つの気持ちがあるかんじです。

日本での経験

小さいころから4年に一度は一ヶ月日本に滞在してましたが、住んだのは大人になって英語教師として赴任した2年だけです。いまその時のことを思い返すと、自分が半分日本人で日本語も分かるから、全く知らない国に行って面白いと感じる人とは求めていたことが違ったのかもしれないなと思います。それまでずっと日本が母国というイメージがあって、子供の時とは違う目線で日本を見てみたいと思っていました。自分が知っているハーフの人たちも同じように1年、2年は帰ってます。みんな同じ気持ちで何かを求めている。いったい何かっていうと分からないけど体験してみたいんです。

日本に住んだのは12~13年前ですが、とにかく目立ったような気がします。町で子供に「あー!外人!」って指さされたりして、一応ハーフなんだけど~って思ったり。当時はGPSとかもないし、人に道を聞いても3回聞かないと答えてもらえなくて。顔見てダメだって思われるのが残念だなと思いました。そんなに怖がらないでって。

この夏、日本に帰った時に4歳の息子がパン屋で「メロンパンがほしい~」と言ったら、パン屋のおじさんに「顔に似合わない日本語を話してるねー!」とか言われて(笑)そういう考え方もあって当たり前だししょうがないと思うけど、古い!私もどう説明したらいいのか……。21世紀です、慣れて下さいってかんじですね。カナダ人でも同じこと言いたい時あるんだけどね。21世紀なんだけどって。

日本人に対してのアドバイス

怖がらないで。話している人は自分が困っているとか、ちょっと知りたいとかなので。日本人の人たちは自分の言葉にコンプレックスがある気がします。学校で英語できなかったーとか。でも実際の人と人とのコミュニケーションは全然違いますから。ただ、やっぱり文化の違いもあるんですよね。例えばセルビアのパーティーと日本のパーティー行くと全然違う感じがします。それもあって日本人からするとがんがんと言われるのは大変って思うかもしれないけど、「これ面白いな~」とそういう目で見て話しかけてほしいなとか、話しかけなくても逃げないでほしいなーと思いますね。

子供たちにも日本語を伝えたい

子供は夫とフランス語、私とは日本語で話しています。9月からはオタワの日本語学校に通い始めるので楽しみです。ちょっと親としての不安は、学校からの知らせなどが日本語で来ること。それと私はカルチャー的には結構分かるんだけれど、日本で育って、外国に来た日本人でもないし、日本で小中学校に行った経験も無いので、どういったことが自分にできるかなと思っています。

私の母は大学で勉強できるぐらいのレベルまで身につけさせようとしていたけれど、自分はどこまでできるかな。でも私も子供と日本語で話したいなって思っています。けれど理科の単語とか(子供の教材に出てくるもの)でも分からなくて調べたり友達に既に聞いたりしているので、不安ですけどなるべく子供たちも話せるようにしてあげたいです。ことばは大切だと思いますから。

あとは自分のためになってると思います。自分の子供たちはクォーターだけれど、私は白人から見るとアジア系と言われます。で、どこのアジア系?話せるの?とか聞かれます。日本語は私のアイデンティティーの一部になっているので当たり前として伝えている感じですね。子供たちはクォーターだから反対に話していると何で?ってなることもあるんですけど。色んな言葉に接して世の中の色んな見方が分かるというのもすごく大切だと思いますし、そう考えると子供たちとも日本語をやっていこうという気持ちがわいてきます。

この頃は世界の色んな所から来ている子供が学校にいて、その子たちもみんな家では違う言葉を話していたりします。だから自分が小さい時ほど特別じゃないかんじがします。21世紀はマルチリンガルが当たり前になってほしいです。