活動報告

本プロジェクトでは、多様な日本語を認める言語観を育成・促進するという目的の下、そのためのリソースを作成し、これらを用いた理解促進について考えるワークショップ、また学会等での発表、情報共有を行っています。

〈ワークショップ〉

〈出版等〉

  1. 米本和弘・柴田智子・津田麻美・林寿子(2017)「多様性を意識した日本語と話者に対する理解が目指すもの-World Japanesesの議論をもとに-」『カナダ日本語教育振興会2017年年次大会プロシーディングス』305-311[PDF
  2. 柴田智子・米本和弘(2019)「日本語と日本語話者の多様性とは何か—言語と話者の多様性に対する理解の育成—」『ヨーロッパ日本語教育』24,661-663 [PDF]
  3. 米本和弘・川口真代・津田麻美・林寿子・柴田智子 (2022)「日本語使用者の語りに基づく多様な日本語に対する理解促進 ー 「セカイの日本語〜みんなの声〜」プロジェクトから」『Journal CAJLE』23, 17–41 [PDF]

〈発表等〉

  1. 米本和弘・柴田智子・津田麻美・林寿子(2017)「多様性を意識した日本語と話者に対する理解が目指すもの-World Japanesesの議論をもとに-」カナダ日本語教育振興会2017年年次大会,カルガリー
  2. 米本和弘(2019)「日本語話者はどのような経験をし、何を語るか—日本語話者の多様性理解のためのリソース開発の試み—」日本外国語教育推進機構(JACTFL)第7回シンポジウム,東京
  3. 柴田智子・米本和弘(2019)「日本語と日本語話者の多様性とは何か—言語と話者の多様性に対する理解の育成—」第23回ヨーロッパ日本語教師会日本語教育シンポジウム

ワークショップ報告(オタワ・カナダ/2019年4月)

林寿子(CAJLE理事)

4月7日カールトン大学にて「セカイの日本語〜みんなの声〜日本語使用者の言語と経験の多様性に対する理解促進のためのリソースを使ってみよう」ワークショップを開催しました。継承語、または外国語としての日本語に携わる教育関係者、保護者の方々26人が集まりました。ワークショップの前半はプロジェクトの理論背景、後半は実際に「セカイの日本語〜みんなの声〜」のオンラインリソースを見ていただき、グループ・全体でディスカッションをしました。

前半の理論背景では、バイリンガリズムの概念が言語1(例えば日本語)、言語2(例えば英語やフランス語)と分けて考えられていたのが、総合的に持っている言語(トランスランゲージング)として理解され始めてきたことについて話し合いました。継承語教育においてトランスランゲージングが継承語習得の過程にどのように影響するのか、またどのように活用されているかなど意見交換をしました。実際日本語学校で日本語だけでなく英語でも少し説明を加えることにより 、日本語学校を続ける子どもが増えたとの報告もありました。また、World Japanesesで日本語の多様性、また実践活動として「やさしい日本語」の解説とアクティビティを全体で行いました。

後半のリソースは日本語使用者の日本語・異文化コミュニケーションのストーリーを聞きながら、自分たちの言語学習者・教育者としての経験を振り返る機会を設けました。言語と文化における見えない壁がどのようなものか(例:日本語が上手になると日本人らしさを求められる等)環境や教育の仕方が違うとコミュニケーションの仕方も変わってくるのではないかなど 、コミュニケーションにおけるストラテジーについて、参加者の方の経験を通して意見交換しました。それをきっかけに実際のクラス・家庭でどのようなアプローチが取れるのか考えるきっかけになったのではと思います。

参加者の方からのアンケートでは、ワークショップ全般において自身の言語経験を通して多言語教育から見る日本語・日本語使用者への理解が深まった、カナダで生活している私たちと同じようなカルチャーショックや言語への難しさを感じている点は同じだなと共感ができた、日本語使用者の経験をリソース化していることなど関心を持たれたようです。

ワークショップ報告(トロント・カナダ/2019年5月)

川口真代(トロント大学OISE)

5月12日にCAJLEにおけるGN(日本語教育グローバルネットワーク)プロジェクトの一環として国際交流基金トロント日本文化センターにてワークショップを行いました。これまでプロジェクトがインタビューによって集めてきた様々な日本語使用者の声を、いかにリソースとして多言語社会での理解やコミュニケーションに役立てていくことができるかを話し合いました。まず、日本語コミュニケーションにおける母語話者を中心とした一元的な言語使用への見方にはどのようなことが影響しているのか、私たちの身近にいる様々な日本語使用者とその言語使用について参加者と振り返ってみました。またバイリンガル教育の分野において従来の言語自体に重点を置いた考え方が、言語使用者自身の「ことば」を中心とした視点に変化してきていることをトランスランゲージングの理論を取り上げながら説明しました。後半はプロジェクトがウェブサイトに掲載しているインタビューを見ながらディスカッションを行いました。参加者からは自身の体験と合わせて振り返る機会になった、他の人の意見や経験に対する捉え方を知ることができて良かったといった感想をいただきました。会を通して、実際にリソースを使う場を設けることが個人の問題意識に働きかけ、参加者全体で議論を共有していく活動につながると感じました。次回のワークショップはバンクーバーで8月に開催を予定しています。

謝辞

本ワークショップはCAJLE地域研修会支援および国際交流基金トロントのご助力をいただきました。ありがとうございました。

ワークショップ報告(バンクーバー・カナダ/2019年8月)

米本和弘(東京医科歯科大学)・川口真代(トロント大学OISE)

8月9日、バンクーバー日本語学校でワークショップを実施しました。リラックスした雰囲気の中、参加者の皆さんには積極的にお話をしていただくことができ、とても有意義な時間でした。今回のワークショップは全体を通して、参加者の皆さんにご自身の経験や考えをお話ししてもらい、そこから、多様な日本語、もしくは多様な日本語話者とは何か、そして、それらに対する意識をどのように高めることができるのかを考えました。

前半は、本プロジェクトの中心的概念であるWorld Japanesesについて、最近の日本社会の状況や参加者が日常生活で感じていることをもとに話を進めました。また、それとともにWorld Japanesesの大きな要素となるtranslanguagingに関しても、これから新しく作り出すものではなく、すでに現実にあるものという事実を出発点とし、具体的にどのようなものかを自身の周囲にある言語使用をもとに話し合いをしました。

さらに後半は、参加者の皆さんに本プロジェクトで作成しているウェブサイト「セカイの日本語」を実際に見てもらった上で、それぞれの教育現場でどのように使うことができるかといった話し合いを行いました。参加者からは学生が自身の身の回りにある多様性について考えるきっかけづくりや、それを目的としたプロジェクトの準備段階で使うことができそうといった声が聞かれました。

ワークショップに参加した参加者からは、自身の学習者がどのような経験をしているのか知りたいと思った、日本人が考える日本語だけではない幅広い意味での日本語を理解する必要性が印象に残ったというという声が聞かれました。それと同時にこのような意識をさらに広げる努力の必要性を指摘する声も聞かれ、さらなる活動の必要性を感じました。

謝辞

本ワークショップは公益財団法人博報児童教育振興会による第14回児童教育実践(日本語と日本語話者の多様性に対する小学生の理解育成のための実践モデル構築)の研究助成、バンクーバー日本語学校のご協力を得て実施しました。ありがとうございました。

ワークショップ報告(ベオグラード・セルビア/2019年8月)

柴田智子(CAJLE副会長・プリンストン大学)

2019年8月29日〜31日にセルビアのベオグラードで開かれたヨーロッパ日本語教師会(AJE)の第23回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムに参加し、大会2日目にポスター発表をし、同日にワークショップを行いました。

ポスター発表は昼前のセッションで、小さめの教室3つに5つずつポスターが分けられていたため、ゆったりとしており、見学者も質問がしやすい環境でした。私たちのポスターにも多くの見学者が来て、少なくとも5、6回、プロジェクトの内容について説明をすることができました。全部で30人くらい(日本からの先生とヨーロッパの先生が半々くらい)が聞いてくださいました。

ワークショップは同日の昼から階段教室で行いました。内容はポスター同様、本プロジェクトで作成しているウェブサイト「セカイの日本語」の紹介と、参加者自身の経験、ウェブサイトの使用方法についての意見交換を行いました。会場が非常に広く、マイクがないと声が聞こえなかったため、ディスカッションでの意見を全体でシェアするのは難しかったのが残念でした。しかし、昼食時と重なっていたため、食事をしながらワークショップに参加してくださった人は40−50人くらい(日本からが半分くらい、ヨーロッパからが半分くらい)にもなりました。また、昼食時とは言え、途中退席する人はほとんどおらず、ディスカッションの時間も近くの人たちと活発に意見交換をしていただけました。ファシリテーターの私は歩き回って話している内容を聞き、マイクで全体でシェアをしました。シンポジウムの基調講演者の一人である岩﨑先生も手伝ってくださり、話し合いに参加してくださいました。40分のワークショップで多くの参加者にこのウェブリソースの存在を認識していただき、また、このプロジェクトの宣伝もしっかりすることができました。

このポスター発表とワークショップで多くのコメントやアドバイスをいただきました。例えばワークショップを日本語教育以外の層もターゲットにすること、ワークショップを日本で開催すること、ウェブ公開期限についてなどです。これらの意見をプロジェクトチーム内で話し合い、日本でのワークショップの具体化に向け準備を進めています。ウェブサイト公開期限についてもCAJLE内で話し合いが進んでいます。

さらに今回、ヨーロッパで新たなコネクションができ、それを通して、より多様な人々の「声」を集める機会が出てきました。チームで協力し、その「声」を集めていく予定です。

謝辞

本ワークショップは公益財団法人博報児童教育振興会による第14回児童教育実践(日本語と日本語話者の多様性に対する小学生の理解育成のための実践モデル構築)の研究助成、ヨーロッパ日本語教師会・南山大学の岩﨑典子先生のご協力を得て実施しました。ありがとうございました。

 

ワークショップ報告(オンライン/2022年8月)

林寿子(カールトン大学)

2022年8月3日、カナダ日本語教育振興会(CAJLE)と、「グローバルにつながるオンライン日本語教育シリーズ第9弾」の合同イベントとして、ワークショップを行いました。このワークショップは「セカイの日本語〜みんなの声〜日本語使用者の多様な言語、文化、社会的経験から教員・保護者が学べる事」をタイトルとし、参加者は世界各国から約100名、小グループに分かれた議論も含め活気ある2時間となりました。

始めに、参加者の皆さんにそれぞれどのように日本語と繋がっているのか、簡単な自己紹介と日本語教育・または家庭での日本語での関わり方を共有していただき、バイリンガリズム、プルリリンガリズム、トランスランゲージング等、様々な多言語活動の理論を紹介しました。その後、そのような理論がどのように家庭や教室内で使われているのか、自身が日本語を使うことに対してどのように感じているのか、また疑問点など話し合ってもらいました。それから、プロジェクトに参加してくれた多様な日本語使用者の声を紹介しながら、参加者自身の視点で、グループでの話し合いを通して、それぞれの経験、感想等、共有し振り返る機会を設けました。

また、実践的には、わたしたちプロジェクトメンバーがどのように日本語使用者の声を受け止めたのか、また大学での授業でどのように、「セカイの日本語〜みんなの声〜」を使いながら、日本語の多様性の気づきを促す実践をしているのかも共有しました。さらに、子育て、地域での未就学・就学時の日本語教育活動がオタワでどのように行われているのか、スペシャルニーズに対する海外での日本語での育児の話を交えながら、多様な年齢・背景の日本語使用者との関わりをこのワークショップで共有でき、参加者の皆さんもなんらかの気づきがあったのではと感じました。

参加者の皆さんのアンケートからは、複言語の習得の良さをもっと発信したい、「多様性」がもっと理解されるような日本語教育を、教育現場そして家庭で実践していくにあたってこのような話し合いの場を増やしたいという意見も多くみられました。

プロジェクトの多様な日本語使用者の声を通して、教師として、保護者として学べることを、世界各国からの参加者の皆さんと一緒に、グループ内で議論し理解を深められ、また、もっと多様な日本語使用者の経験を知りたい、自分達の身の回りにいる人をより理解し、日本語教育、日本語での子育てをできたらいいと思えるようなワークショップだったと思います。

 

ワークショップ報告(モントリオール・カナダ/2023年8月)

林寿子(カールトン大学)・柴田智子(プリンストン大学)

8月18日モントリオールでのCAJLE2023年次大会にて、「セカイの日本語〜みんなの声〜:日本語使用者の多様な言語、文化、社会的経験に対する理解と実践への応用」と題する公開ワークショップを開催しました。今回のワークショップはハイブリッド方式とし、遠隔地からもZoomにて参加できるようにしたところ、参加者は合わせて約60人が集まりました。対面・オンラインそれぞれで日本語及び日本語教育に関わっている国や立場を超えた活発な意見交換が行われ、充実した時間となりました。まず、私たちのプロジェクト「セカイの日本語〜みんなの声〜」のHPに掲載されている様々な言語的背景や経験を持つ日本語使用者のインタビュー(https://sekainonihongo.com/resource/)を通して、教室や家庭といった場所での日本語の多様性について考える私たちの取り組みについて2つの実践報告を行いました。

1つ目の報告は、日本で短期ホームステイ・日本語研修プログラムに参加していた大学生に対する実践で、彼らが日本滞在中どのような日本語に出会ったか、そしてそれがコミュニケーションにどう影響したか考えてもらいました。さらにプロジェクトが紹介するインタビューの内容とも関連付けて話し合いをさせ、実際に日本語の多様性を感じ取ってもらいました。

2つ目の実践として、カナダのオタワで日本語を使って子育てをしている保護者を対象に、各々家庭や日本語学校など、子供の周りの日本語環境について振り返り、言語、文化、社会経験の観点から話し合いました。多様性と子供達の未来についての悩みや希望を共有することが、保護者同士の日本語での子育ての励ましにもなり得るということが分かりました。

これらの実践報告の後、参加者は小グループで自身の日本語教育、その環境や多様性について振り返りながら、それぞれの現場での経験を共有する形で話し合いの時間を持ちました。ワークショップの最後には、対面会場のいくつかのグループの代表者にグループで出た意見をまとめて発表していただきました。

小グループの話し合いでは、多様な日本語を認識しながら日本語学習を応援するには、コミュニケーションが円滑にできるような環境を作ることではないかという意見が出されたり、そもそも多様な日本語とは何かという点が多方向から話し合われたり、様々な、意見交換が見受けられました。特に、多様な日本語とは方言や話し方といった言語的な側面だけではなく、話者自身の持つ価値観など、個人的な文化、政治的視点も含まれているのではないだろうかという意見も発表されました。

これらの多様性自体の理解に留まらず、他者と認識を共有する機会や社会全体からの取り組みの必要性など、実践の視点についても参加者の間で関心が広がったようで有意義な時間となりました。